カーボン・マイスターの「チクチク人生劇場」

• 05/19/04:12

私はガソリン恐怖症である。いわゆるトラウマというやつだ
私自身がヤケドしたわけではない。会社の同僚が引火事故にあったのである

私は目の前で、一部始終を見ていた・・・
レース屋に勤務していた　まだ２０代の頃、その事故は起きた

寒い日の午後、底面を損傷したF3000のモノコックが運び込まれた
ジョニー・ハーバートのクルマだった

その年、ジョニーは日本の柔らかいタイヤが合わず、クラッシュばかりしていた
底面を打ったため、モノコックをひっくり返さなければならなかった

いくらカーボンモノコックが軽量であるとはいえ、F3000クラスだと
前後２名ずつで持たなければ、ひっくり返せない

若いメカニック２人呼んで、力をかしてもらってひっくり返した
その瞬間、ガソリンが流れ出た

とっさに私は、そばにあったパレットを受け皿にした
ちょうどパン屋さんがパンを運ぶときに使うようなサイズの大きさだった

そのパレットに、なみなみとガソリンがたまった
喜んだのは、金のない若いメカニック２人だった。自分のクルマに入れようとしたのだ

パレットはパテの研ぎ粉がいっぱいだったので、
「そんなガソリン、穴掘って捨てちまえよ」と私が言ったら、
「大丈夫です。こして使いますから」とジョウゴとペーパーウエスを持ち出す２人

「あぶねえから、外でやれよ」と師匠のSさんが忠告
２人は外に出てパレットを持ち上げ、チョロチョロと‘ろ過’し始める

私はガソリンを吸い込んで気持ち悪くなってたので、外で彼らを眺めてた
そのとき突然、ジョウゴの上にポッと火が出た・・・

「やべえ、置け！」
２人がパレットを地面に置いた瞬間、「ドーン」と火柱があがった

次の瞬間には、２人に引火していた
火のついた人間の動きはメチャクチャ早くて、消火器を持った人間はなかなか追いつけなかった

その間も、立って走り回る２人の炎は　上へ、上へと燃え広がった

やっと消し止めたが、２人はそのまま救急車で運ばれた
引火の原因は静電気だった。ペーパーウエスでこしたのがまずかったようだ

私は心底震え上がった
火がついて逃げ惑う人間の姿が、目に焼きついてしまったのだ

それ以来、ガソリンスタンドにいても落ち着かなくなった
セルフスタンドなんて、もってのほかだ

この季節、空気が乾燥する
化学繊維のジャンパーを着た、バイトのスタンド店員が近づいてくると油汗が流れる

皆さんも、静電気の起きやすい服でセルフスタンドには行かないほうがいいですよ


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• 10/25/22:30
• 旧ブログ‘まぐまぐ’インポート記事
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